NGSエピゲノム実験・解析技術

ゲノム塩基配列に変化を起こさずに遺伝子発現を制御し、体細胞分裂後も引き継がれる後天的な仕組み「エピゲノム」といいます。その代表的なものとして、シトシン塩基に起こるDNAメチル化や、ヌクレオソームを構築するヒストンのN末端に起こるヒストン修飾、ヌクレオソームの集合であるクロマチン構造による制御などが挙げられます。発生や分化の段階で重要な役割を果たすエピゲノムは、正常と癌、そして癌のサブタイプ形成にも寄与していることがわかってきました。候補遺伝子に絞った解析から次世代シーケンサーを用いたゲノム網羅的解析まで解析技術は向上し、細胞株や臨床検体そして単一細胞までエピゲノム情報の収集が進んでいます。

DNAメチル化の解析

  • DNAメチル化 DNAメチル化は、DNAメチル基転移酵素がシトシン (C) 5位にメチル基を付加してメチル化シトシン (5mC) とする反応であり、CpG配列でみられます。CpG配列が多く出現するゲノム領域は“CpGアイランド”と呼ばれ、ヒトでは遺伝子の約70%がそのプロモーターにCpGアイランドを持っています1)。DNAメチル化が遺伝子プロモーターに起こると、転写因子の結合阻害やクロマチン構造の変化を介して遺伝子発現は抑制されるといわれています。
  • ヒストン修飾 ヒストンは、H2A、H2B、H3、H4からなる4種類のコアヒストンが、それぞれ2分子ずつ集まった8量体です。その周囲に約147bp周期をもってDNAが巻きつきヌクレオソームを形成し、ヌクレオソーム間をつなぐリンカーヒストン(H1)とリンカーDNAとともにクロマチンを構築しています。ヒストンのN末端であるヒストンテイルのアミノ酸残基に、メチル化 (me)、アセチル化 (ac) をはじめとするさまざまな修飾が加わることで、クロマチン構造や転写因子を含む蛋白質複合体との結合性に変化が起こり、遺伝子転写制御が行われます。転写が活性化されている遺伝子は、プロモーター領域やエンハンサ―領域のクロマチンがオープンな状態となっており、プロモーター領域にはH3K4me3やH3K27ac、エンハンサ―領域にはH3K4me1が存在しています2)
  • Methylated DNA Immunoprecipitation (MeDIP) 5mCやメチル化DNA結合ドメイン (methyl-CpG-binding domain:MBD) 蛋白質に対する抗体を用いて免疫沈降を行う方法です。免疫沈降産物は、realtime PCRやゲノムタイリングアレイ、次世代シーケンサーを用いた解析に用いられます(「MBD-seq」と呼ばれる)3)。MeDIP-seqは、ゲノム網羅的なメチル化解析が可能である一方で、繰り返し配列やCpG配列が多い領域に濃縮バイアスがかかり、またDNAメチル化は領域におけるピークとして表現されます4)
  • バイサルファイト処理: 一本鎖DNAに対してバイサルファイト処理と脱スルホン化を行うと、非メチル化シトシン (C) はウラシル(U) に変換されます。一方で、メチル化シトシン (5mC) は変換速度に時間がかかり、シトシン (C) のままです5)。このため、バイサルファイト処理後にはCと5mCは異なる塩基配列 (T or C) を持つこととなり、PCRを行うとCはT、5mCはCとして認識されます。バイサルファイト処理前後の塩基配列を比較することで、一塩基単位の解像度で解析することが可能となります。
  • MSP (Methylation-specific PCR) バイサルファイト処理を用いたDNAメチル化解析の簡便な方法です6)。非メチル化DNAに由来する配列を認識するプライマー (Uプライマー)と、メチル化DNAに由来する配列を認識するプライマー (Mプライマー)を解析対象となるCpG部位を含むように設計してPCRを行います。電気泳動でのPCR産物の有無の確認やリアルタイムPCRよる半定量的な測定を行うことが可能です。
  • バイサルファイトシークエンス: メチル化解析対象領域をPCR増幅し、プラスミドにクローニングして、複数クローンのシークエンスを行うことで、解析対象領域に含まれるCpG配列すべてのメチル化状態が決定できます。2008年に報告された“全ゲノムバイサルファイトシークエンス (whole-genome bisulfite sequence: WGBS)”は、次世代シーケンサーを用い、解析対象領域を全ゲノム領域に拡張した解析方法です7)
  • PBAT (post-bisulfite adaptor tagging) WGBSにおける開始サンプル必要量やPCR増幅を減少させた、効率的であり精度を高めた方法です8)。アダプター付加後にバイサルファイト処理を行う従来法では、バイサルファイト処理がゲノムDNAを損傷し、アダプター付加された鋳型DNAが切断されてしまいます。そのため、有効な鋳型DNAを回収するためには5mgのサンプルとPCR増幅が必要でした。PBAT法では、鋳型DNAの損傷を回避するためにバイサルファイト処理を先に行います。そしてバイサルファイト処理後に2回のランダムプライマー伸長反応を行います。こうすることで、開始サンプル必要量は125pgまで減少させられ、開始サンプル量を多く用いればPCR増幅も減少することが可能です。この方法は単一細胞解析にも応用されています9)
  • RRBS (reduced representation bisulfite sequencing) CCGGを認識するMspIをはじめとした制限酵素処理とサイズ分画を行い、CpG配列の濃縮を図る工夫がされています。制限酵素処理に由来する解析対象領域の制限や、CpG配列が多い部分は濃縮バイアスがかかりやすい問題点があげられるものの、プロモーター領域の70%以上、CpGアイランドの80%以上を網羅することが可能です。RRBSを使ったメチル化解析は、単一細胞11)やレーザーマイクロダイセクションサンプルでも報告されています12)
  • Infinium Methylationアッセイ バイサルファイトシークエンスより、より簡便に多サンプルの解析を行うことができ、濃縮バイアスもかからないとされるビーズアレイを用いた方法が、“Infinium Methylationアッセイ (Illumina) ”です。バイサルファイト処理後のゲノムに対して、メチル化プローブと非メチル化プローブ (Infinium I アッセイ)、あるいは両者の性質を兼ね備えたプローブ (Infinium II アッセイ) を用い、SNP解析用のマイクロアレイプラットフォームを利用してメチル化率を測定します。2015年には、Human Methylation 450 BeadChipが最新として流通しており、45万以上ものメチル化部位を標的としてプローブの設計がなされています。mRNA遺伝子の361,766か所、non-coding RNA遺伝子の4,168か所のメチル化サイトが検出対象であり、そのカバー率は、CpGアイランドの96%、RefSeq遺伝子の99%になります。また、プロモーター領域だけではなく、5¢-UTR、gene body、3¢-UTR、遺伝子間領域にもプローブが設計されています。メチル化と非メチル化は、プローブの蛍光強度のシグナル比率として検出され、0.00 (非メチル化状態) から1.00 (メチル化状態) までのβ値で比較的定量性を持って表現されます。500ngのゲノムDNAで解析でき、多数のサンプルのメチル化模様をゲノム網羅的に高解像度でみられる点で優れています13)
  • パイロシークエンス法 ゲノム網羅的解析法の結果は、正確な定量的メチル化解析でValidationを行うことが推奨されます。一般的には“MALDI-TOFMS”や“パイロシークエンス法”が用いられます14)。ここではパイロシークエンス法を紹介します。パイロシークエンス法は、ポリメラーゼ伸長反応時、ヌクレオチドが取り込まれる際に放出されるピロリン酸から遊離するATPをルシフェラーゼ発光反応に用い、光をパイロシークエンサーで検出する方法です15)。バイサルファイト処理後のゲノムDNAに対して、一方は5¢末端をビオチン標識したプライマーペアでPCR増幅し、ストレプトアビジンビーズに固定化、一本鎖変性させ、シークエンシングプライマーとハイブリダイズさせます。酵素や基質とともに、dNTPを1種類ずつ添加し、ターゲット配列に対応するdNTPであれば取り込まれ、発光反応が起こりパイログラムのピークとして表示されます。このときのピークの高さは取り込まれたdNTP数に比例して表現されます。解析長は約数十bpと短く特殊なシークエンサーが必要であり、C/(C+T)×100(%)を計算することで0%から100%まで定量性高く、再現性を持って、短時間で多サンプルのメチル化状態を解析できます16)。現在は、Pyromarkシステム (QIAGEN) が利用されています。
  • 臨床検体での解析例 得られたメチル化データを用いて階層的クラスタリングを行うことで、癌症例はいくつかのサブタイプに明瞭に分類されます。神経膠種やその他多くの癌で、CpGアイランドのDNAメチル化で特徴づけられるCpGメチル化形質 (CpG methylator phenotype: CIMP) というサブタイプがあることが認識されており、CIMPを形成する責任因子は治療標的となりうることが示されています17) 18)。一例として、2010年大腸癌19)、2011年胃癌手術検体16)、2013年甲状腺癌手術検体20)について、MeDIPやInfinium Methylationアッセイによるゲノム網羅的解析とともに、MALDI-TOFMSやパイロシークエンス法による検証を行い、エピジェノタイピングされた結果が報告されています。たとえば胃癌では、従来から同定されていた高メチル化胃癌と低メチル化胃癌21)に加えて、ゲノム全体に著しいメチル化を示す超高メチル化胃癌の存在と、その原因がEBウイルス感染であることが明らかになっています16)。また、大腸癌患者の血漿中の遊離DNAに対して、MSPおよびパイロシークエンス法でメチル化率を測定し、早期癌を高感度・高特異度で検出するメチル化マーカー遺伝子が提案されています22)

ヒストン修飾とオープンクロマチン領域の解析

  • クロマチン免疫沈降 (Chromatin immunoprecipitation: ChIP) 抗体を用いて目的蛋白質のゲノム上の局在を検出する方法です。ヒストンあるいは転写因子などの目的蛋白質とDNAをホルムアルデヒドで固定し蛋白質-DNAの架橋構造を形成します。架橋後、超音波破砕や酵素消化によりクロマチンDNAを回収して、ヒストン修飾や目的蛋白質に対する抗体を用いて免疫沈降を行います。熱を加えることで、免疫沈降産物に対して蛋白質-DNAの脱架橋を行い、濃縮されたDNAを精製します。ChIPで得られたDNAは、realtime PCRやゲノムタイリングアレイ、次世代シーケンサーを用いたChIP-seq解析に用いられます23)。ChIP-seqを行うのに必要な細胞数は一般的には107個程度とされていますが、少ない細胞数からでも行えるように改良が重ねられており、103 個でもヒストン修飾についてのNano-ChIP-seqが可能となっています24)。2013年には、5mg程度の胃癌臨床凍結検体を用いたNano-ChIP-seqにより、臨床検体のゲノム網羅的なヒストン修飾状態および転写因子の解析が行われました25)
  • オープンクロマチン領域の解析 “Formaldehyde-Assisted Isolation of Regulatory Elements (FAIRE) 26)”や“DNase-seq27)”、“Assay for Transposase-Accesible Chromatin (ATAC) -seq28)”が用いられます。
  • FAIRE-seq: オープンクロマチン領域を濃縮する方法です。架橋構造形成して超音波破砕を行った後、抗体を用いた免疫沈降を行うかわりに、フェノール・クロロホルム抽出により断片化されたフリーDNAを回収し精製します。FAIRE-seqでは、オープンクロマチン領域をゲノムワイドに解析できるとともに、得られたピーク領域に出現する塩基配列のモチーフ解析をすることで、その領域のゲノム結合蛋白を予測することが出来ます29)
  • DNase-seq/ATAC-seq FAIRE-seqで用いる超音波破砕の代わりにDNaseIを用いて、オープンクロマチン領域のゲノムDNAを断片化します。それらDNA断片にビオチンタグを付け選別し塩基配列を読むことで、オープンクロマチン領域を特定します。ATAC-seqでは、DNAアダプターを組み込んだ活性型Tn5トランスポゼースを用いて、オープンクロマチン領域の切断と次世代シーケンサー用アダプターの付加 (タグメンテーション)を同時に行います。直接的にアダプターを付加することが可能なため、ライブラリ調整を短時間かつ簡便に、FAIRE-seqやDNase-seqの1/100量の細胞数でも行うことが出来ます。DNase-seqとATAC-seqでは、オープンクロマチン領域の中でも蛋白質と結合している部分を切断しないという性質を用いて、1bp単位で蛋白質の結合領域を特定できます。これは“フットプリント解析”と呼ばれます。任意の細胞において重要な役割を果たす転写制御因子の予測と、より正確な結合領域の予測が可能です30) 31)。ATAC-seqに関しては、血液サンプル5mLからT細胞を回収し、ATAC-seq解析を終了するまで約5時間と短時間で、治療標的とする遺伝子発現を制御する転写因子候補の情報を得ることができた、という報告があります28)。このように、少ないサンプル量を用いて短時間でエピゲノム解析を網羅的に行い、効果的な転写因子阻害薬の情報を提供しうる解析法は、個別化医療において治療選択判断の一助となる可能性があります。
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NGSメタゲノム実験・解析技術

作成中

  1. 16S rRNA系統解析:作成中
  2. ショットガン・シーケンシング:作成中

NGSゲノム実験・解析技術

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  1. 全ゲノム・シーケンシング:作成中
  2. エクソーム・シーケンシング:作成中