Whole Exome Sequencing (WES)を利用した研究紹介

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はじめに

Whole Exome Sequencing(WES)に関していままで原理や方法論などをご紹介して参りましたが、本記事では、Whole Exome Sequencing(WES)を利用した研究を紹介して参ります。

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WESと疾患研究

The promise of whole-exome sequencing in medical genetics. (Review)

Rabbani B, Tekin M, Mahdieh N.
J Hum Genet. 2014;59(1):5-15. doi:10.1038/jhg.2013.114

2009年にNgらがWESの有用性を初めて報告し、同年ChoiらはBartter症候群の患者をWESで診断し、一部が先天性クロール下痢症であることを明らかにしました。以降、WESはさまざまな研究や臨床で活用されており、聴覚障害などの多因子疾患の変異検出やキャリア診断、発病前の予後予測、薬剤効果の評価、治療選択などに利用されています。さらに、未知の疾患関連変異や疾患素因となるSNPの発見を通じて、疾患の遺伝的基盤や分子機構の解明にも貢献しています。

Whole exome sequencing study identifies novel rare and common Alzheimer’s-Associated variants involved in immune response and transcriptional regulation

Bis JC, Jian X, Kunkle BW, et al.
[published correction appears in Mol Psychiatry. 2020 Aug;25(8):1901-1903. doi: 10.1038/s41380-019-0529-7]. Mol Psychiatry. 2020;25(8):1859-1875. doi:10.1038/s41380-018-0112-7

遅発性アルツハイマー病は多因子疾患で発症には複雑な環境因子・遺伝的要因が絡み合っています。Alzheimer’s Disease Sequencing Project(ADSP)は、遅発性アルツハイマー病に関連する疾患感受性遺伝子や変異を特定するために、単一変異および遺伝子ベースの解析を行い、WESデータとWGSデータで再現性を検証しました。この論文では、コモンバリアント(人口の1%以上で遺伝子変化がある)やレアバリアント(人口の1%未満で遺伝子変化がある)を示すAD関連遺伝子を新たに発見・報告し、その遺伝子がAD発症にどのように関与しているかについて、今後の課題と展望も踏まえながら考察しています。

●Prevalence and Clinical Features of Inflammatory Bowel Diseases Associated With Monogenic Variants, Identified by Whole-Exome Sequencing in 1000 Children at a Single Center.

Crowley E, Warner N, Pan J, et al.
Gastroenterology. 2020;158(8):2208-2220. doi:10.1053/j.gastro.2020.02.023

カナダの単一施設において、1005人の炎症性腸疾患(IBD)小児患者とその家族(合計2305サンプル)の血液サンプルを用いてWESを実施し、約3%の患児が、単一遺伝子異常に関連するIBDの原因となるレアバリアントを持っていることが明らかになりました。また、その臨床的特徴として、低年齢での発症や家族歴などが見られていました。かつ、1%の患児は同種造血幹細胞移植の適応となる変異を持っていることが判明し、適切な治療選択につながる可能性が示唆されました。この研究は、単一遺伝子異常に関連するIBDが稀であるものの、小児期に発症したIBDの全患者において考慮すべきであると提案しています。

WESとゲノムワイド関連研究(Genome-Wide Association Study: GWAS)

Genome-wide association studies. (Review)

Uffelmann, E., Huang, Q.Q., Munung, N.S. et al.
Nat Rev Methods Primers 1, 59 (2021). https://doi.org/10.1038/s43586-021-00056-9

GWASとは、遺伝子型と表現型の関連を特定するために、異なる表現型を持つ個体間でアレル(allele) 頻度の違いを調べることを意味します。アレルとは、ゲノム上の特定の位置(遺伝子座)を占める遺伝子(対立遺伝子)のことで、私たちは父親由来と母親由来の2つのアレルを持っています。そして、その塩基配列には、例えば一塩基多型(SNP)をはじめとするバリエーションが見られます。あるバリエーションが特定の集団の中に占める割合のことをアレル頻度と呼んでいます。例えば、疾患といった特性を持つ集団と持たない集団間で、特定のアレル頻度に差があるかを比較し、その差が集団間で有意であれば、そのアレルは「リスクアレル」と呼ばれ、その領域は「ゲノムリスク座位」と呼ばれます。このレビュー論文までに、5,700以上のGWASが行われ、3,300以上の特性が研究されており、サンプルサイズは100万人を超えています。これにより、多くの遺伝的変異が特性と関連していることが明らかになりました。遺伝的変異を探索するジェノタイピングとして、SNPスクリーニングのためのアレイを使用したアプローチから、NGSを利用したWES/WGS(whole-genome sequencing) が主流となりつつあります。WGSは全ゲノムの塩基配列を得られるメリットがありますが、簡便性やコストの面から、WESが広く利用されています。

Large-scale genome-wide association study in a Japanese population identifies novel susceptibility loci across different diseases.

Ishigaki K, Akiyama M, Kanai M, et al.
Nat Genet. 2020;52(7):669-679. doi:10.1038/s41588-020-0640-3

この研究は、現在の遺伝学研究において参加者の大多数が欧米人であり、東アジア人を対象とした研究が少ないという現状を踏まえて実施されました。具体的には、日本人212,453人を対象に全ゲノム関連解析(GWAS)を行い、27の疾患に関連する320の疾患感受性変異を同定しました。研究の結果、欧米人と東アジア人の間でアレル頻度に違いがあり、欧米人には見られない疾患感受性変異も存在することが示されました。このことから、東アジア人を対象としたゲノム研究の重要性が明らかになっています。さらに、変異がタンパク質のアミノ酸配列や遺伝子発現量にどのような影響を与えるか、また変異と転写因子活性との関連についても調べることで、疾患発症に関わる生物学的機序を遺伝子および転写因子レベルで解明することを目指しました。

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