エピジェネティクスとは何か

エピジェネティクスとは

DNA とは?(ゲノム入門第1回)でご紹介したように、DNAは細胞の情報を蓄えた、細胞の設計図です。しかし、同記事でお伝えしたように、DNAは細胞の中で裸の状態で存在しているわけではなく、ヒストンがくっついていて場所によって様々な構造をとります。つまりDNAの様々な部分に飾りがついているということです。その飾りの種類によって同じDNAでも様々な使われ方をすることができます。細胞の情報はDNAだけで決まるのではなく、その上に上書きされた情報によっても変わってくるということです。現在の生物界での最大公約数的な理解は、「エピジェネティクスな特性とは、DNAの塩基配列の変化をともなわずに、染色体における変化によって生じる、安定的に受け継がれうる表現型である」、という定義です。

エピジェネティクスの物質的な説明

前節の最後の定義は慣れないとかなり難しいですね。ここでじっくり考えていきましょう。DNA とは?(ゲノム入門第1回)でも書きましたが、DNAはヒストンというタンパク質に巻き付いて染色体を形成しています。DNAとヒストンが凝縮していれば外からタンパク質が近づきにくいのですが、凝縮していなければタンパク質が近づきやすくなります。そしてこの性質はエピジェネティクスという点でかなり役立ちます。例えば、ヒストンがアセチル化されると凝縮が緩み、タンパク質が近づきやすくなります。DNAの転写因子が転写領域に近づきやすくなるので、転写が起こりやすくなり、結果として遺伝子発現が活性化されます。 DNAがメチル化されると凝縮が起こり、転写因子が近づき難くなり、結果として遺伝子発現が抑制されます。アセチル化には、アセチル化を促進する酵素、脱アセチル化を促進する酵素、脱アセチル化を阻害する酵素(すなわちアセチル化を促進する酵素)など多くの酵素が関わっており制御されている。

エピジェネティクスの具体例1~がんとエピジェネティクス~

がんには原因遺伝子の突然変異と、エピジェネティックな異常の両方が関係しています。前者は現段階ではコントロール不可能ですが、後者はエピジェネティクス状態を操作することによりがんを治療できるのではないかと考えられています。例えば白血病の原因遺伝子の転写を促進するタンパク質が転写結合領域の結合するのを阻害し、この遺伝子が原因になっている白血病は実験的には治療できるようになっています。ただ、そもそもエピジェネティックな機構が原因と言えるのかわからない顔もたくさんあり、今後の研究の進歩が望まれています。

エピジェネティクスの具体例2~生活習慣病とエピジェネティクス~

イギリスのバーカー博士は、新生児期の体重が低いと冠動脈疾患で死亡する確率が高いことを発見しました。そこで彼が唱えたのがバーカー仮説です。母体内で低栄養にさらされ生まれた赤ちゃんは将来生活習慣病になりやすく、その理由は、胎児期に十分な栄養を取り込むように適応してしまって、将来普通に栄養をとると過剰摂取になってしまうことだ、という仮説です。例えば2型糖尿病ではインスリンが分泌し難くなったり機能しにくくなったりすることが原因なのですが、インスリンの作用を低下させて栄養分を骨格筋などに取り込まず、脳に栄養分を回すことで、胎児期の飢餓状態を耐え抜いたのではないか、と考えられています。そしてその記憶が数十年続くのは、関係遺伝子のDNAのメチル化状態に異常をきたし、それが受け継がれているからだと考えられており、それが動物実験では示されています。

まとめと補足

エピジェネティクスはゲノム生物学の行き詰まりから生まれた学問ですが、あくまでゲノム生物学を基盤としています。現在、確実にエピジェネティクスが関連していると証明されている事例はそれほど多くありませんが、関係が示唆されている事例はたくさんあります。今後の研究の進展が期待されています。



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