[エピゲノム入門]3-4. 転写因子の翻訳制御とエピゲノム

エピゲノム入門

この節から学ぶこと

・転写されたRNAが切り取られることを「スプライシング」という
・「siRNA」という特別なものが、分解したいRNAを認識する
・siRNAの中にはDNAのメチル化に関わるものがある

​RNAに関係するエピゲノム制御

このエピゲノム入門のページでは、遺伝子発現を「RNAに転写してタンパク質に翻訳すること」と定義しています。

「クロマチン構造の変化とRNA合成」と「転写因子とエピゲノム」では、DNAからRNAに転写するときに何が起きているのか、そのときにエピゲノムがどのように関与しているのかを解説しました。

しかし実際の生体内では、作られたRNAがそのままタンパク質に翻訳されるわけではありません。また、RNAを分解することで、作るタンパク質の量を調節することもあります。この仕組みもまた、多様やタンパク質や細胞の機能を作り出すことに貢献しています。

この記事では、それぞれの仕組みや、エピゲノムとの関係を解説します。

RNAを切り取る

最初に紹介するのは、1つの遺伝子(DNA領域)から複数の種類のRNAが作られるというものです。

ヒトの遺伝子は約2万種類あると推定されていますが、タンパク質は10万種類にも上ると考えられています。1つの遺伝子から1種類のタンパク質だけ作るとすると、この差は説明できません。

実は、最初に作られたRNAは一部が切り取られ、少し短くなった状態でタンパク質に翻訳されます。動画の一部を削除して編集するようなものです。

このとき、1つのRNAで切り取る場所が複数あるため、切り取られてできあがるRNAも複数の種類となり、それぞれのRNAから異なる種類のタンパク質に翻訳されます。似たような機能をもつタンパク質の場合もあれば、機能がまったく異なるタンパク質が作られる場合もあります。動画の編集の仕方によって内容が変わる場合がある、ということに似ています。

このRNAの切り取りのことを「スプライシング」といいます。スプライシングは、限られた遺伝子の数から多種多様なタンパク質を作るための仕組みであり、進化した生物ほど複雑であると考えられています。

スプライシングの頻度とヒストンのメチル化には関係があるとする報告もあり、エピゲノムとの関連が注目されています。詳細は今後の研究課題となりますが、詳しい仕組みがわかれば、スプライシングをコントロールして特定のタンパク質だけを作ることが可能になるのかもしれません。

RNAによる翻訳抑制と転写抑制

もう一つの仕組みは、RNAを分解して翻訳させないようにするというものです。これを「RNA干渉」といい、英語ではRNA interferenceと書くため「RNAi」と呼ぶこともあります。

RNAiは、翻訳されるRNAとは別のRNAが関わります。そのRNAは、2本の鎖となっており、「small interfering RNA(siRNA)」と呼ばれています。

siRNAは、分解するRNAを認識できる塩基配列をもっています。これを利用して、特定のRNAを分解して、特定のタンパク質が作られないようにしています。

このsiRNAを細胞の内部で作る、または人為的に外部から入れることで、狙ったRNAだけを分解することでタンパク質への翻訳を抑えることができます。

このsiRNAの中には、RNAの分解だけでなく、DNAをメチル化することでRNAの転写を抑えるものもあります。この現象を「RNA指令型DNAメチル化(RdDM)」といいます。

RdDMは、植物で初めて見つかったため、siRNAによるエピゲノム制御については植物の分野で活発に研究されています。例えば、siRNAを作るウイルスを作成し、それを植物に感染させると、DNAをメチル化させることで狙った遺伝子の発現を抑えることができます。使用するウイルスは、種や球根には残らないタイプにすれば、その種や球根からできる植物にはウイルスが含まれていない、しかし狙った遺伝子の発現が抑制されたものになります。これを利用して、農作物の品種改良を行うことができると注目されています。

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