RRBSによるメチル化制御機構の解明: 方法、利点と課題

オミクス基礎知識

はじめに

DNAメチル化は、遺伝子の発現を制御する主要なエピジェネティックな修飾の一つです。RRBS (Reduced Representation Bisulfite Sequencing) は、DNAのメチル化状態を単一ヌクレオチドの解像度で詳細に、かつ、全ゲノムバイサルファイトシークエンス(WGBS; Whole Genome Bisulfite Sequencing)と比較して、少ないリード数で効率的に解析するための技術の一つとして、広く利用されています。本稿では、RRBSの原理、その利点、および課題について解説します。

RRBSの原理

一般的に、RRBSでは、DNAを抽出・精製後、制限酵素Msplを用いてCCGGサイトでDNAを切断します。得られた断片化DNAに対してエンドリペアやアダプターライゲーションを行いライブラリ調整を行います。その後、サイズセレクション、バイサルファイト処理PCR増幅によりCpGリッチ領域は濃縮されます。これをシークエンスする事で、、少ないデータ量で効率よく個々のシトシン塩基のメチル化状態を解析できます。

RRBSの利点

RRBSはCpG領域のみのメチル化レベルを解析するための強力なツールです。以下にその主な利点をいくつか挙げてみましょう。

  • 高解像度: RRBSは、ゲノム全体ではなく、特定の関心領域(CpGリッチ領域)に焦点を当てるため、それらの領域のメチル化状態を高い解像度で解析することができます。WGBSではヒトゲノムの全CpGサイト(~28 × 10^6)の95%までをカバーしており、RBBSでは2–4.5 × 10^6のCpGサイトをカバーしていると言われます。RBBSはWGBSと比較して対象となるCpGサイトは少なくなっていますが、CpGアイランドをカバーしており、 WGBSよりも高い解像度でCpGアイランドのメチル化状態を解析出来るという強みがあります。
  • コスト効率: ゲノム全体を対象とする方法よりも、サンプリングする領域を制限することで、シーケンシングのコストを大幅に削減できます。ゲノム全体をシーケンシングするWGBSとは異なり、データ取得のためのコストを抑えることができるでしょう。
  • 繰り返し領域の回避: ゲノムには繰り返し領域が多く存在し、これらの領域はシーケンシングや解析の際に問題となることがあります。しかし、RRBSはこれらの繰り返し領域を効果的に回避することができます。

RRBSは、同じくDNAメチル化解析のツールであるWGBSやイルミナ社のDNAメチル化アレイ(Infinium MethylationEPIC BeadChip)と比較されることが多いですが、それぞれが独自の利点と課題を持つため、研究の目的や予算に応じて適切な手法を選択することが重要です。

RRBSの課題

一方で、RRBSには下記に上げるような課題もあります。

  • カバレッジの偏り: 特定の領域のみを対象とするため、他の重要な領域が解析から除外される可能性があります。
  • 技術的な困難: RRBSは技術的に難易度が高く、経験と専門知識を要するため、全ての研究室での実施が難しいことがあります。

RRBSの研究応用

RRBSは、さまざまな生物学的、医学的分野でのメチル化の研究に有効に利用されています。がんや神経変性疾患、糖尿病や老化などさまざまな疾患の解明に、RRBSは活用されています。

まとめ

RRBSは、DNAメチル化の研究において強力なツールとして広く採用されています。その高解像度とコスト効率の良さは、特定の研究問題に対して大きな利点をもたらします。しかし、技術的な難易度やカバレッジの偏りなどの課題も考慮する必要があります。適切な研究デザインと、RRBSの利点と課題の理解を基にした実験設計が、成功への鍵となります。

参考文献

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