この節から学ぶこと
・転写活性化因子はDNAのエンハンサーに結合して転写を促す
・転写抑制因子はDNAのサイレンサーに結合して転写を抑える
・いずれもヒストンのアセチル化やメチル化に関わるものがある
転写因子には発現を促進するものと抑制するものがある
前回の「3-2 クロマチン構造の変化とRNA合成」の後半では、「転写因子」を解説しました。今回は、転写因子について詳しく解説します。
転写因子とは、DNAに結合して遺伝子発現を制御するタンパク質で、大きく2種類に分けられます。一つは、転写を促進するタイプで、「転写活性化因子」とよばれています。もう一つは逆のタイプで、転写を抑制させる「転写抑制因子」とよばれています。
転写活性化因子も転写抑制因子も、ヒストンのアセチル化やメチル化に関わります。いずれも、エピゲノムと強い関係があります。
転写活性化因子
転写を促進する転写活性化因子は、「1. DNAに結合」、「2. 別のタンパク質集団と結合」、「3. そのタンパク質集団がRNAポリメラーゼに作用して転写を始める」という手順をとって転写を促進します。順番に詳しく見ていきましょう。
「1. DNAに結合」では、遺伝子から少し離れたDNA領域にある「エンハンサー」という場所に結合します。
「2. 別のタンパク質集団と結合」では、エンハンサーに結合した転写活性化因子が、「メディエーター」という複数のタンパク質の集合体と結合します。
「3. そのタンパク質集団がRNAポリメラーゼに作用して転写を始める」では、メディエーターがRNAポリメラーゼと結合します。このRNAポリメラーゼは、別のタンパク質である「基本転写因子」とも結合しています。基本転写因子もまたDNAに結合しており、その場所は「プロモーター」とよばれています。このプロモーターからRNA合成、つまり転写が始まります。
つまり、転写が始まるときには、エンハンサーに転写活性化因子が結合する、転写活性化因子がメディエーターと結合する、メディエーターと基本転写因子(プロモーターに結合している)がRNAポリメラーゼに結合する、という現象が起きています。
このとき、メディエーターを構成するタンパク質の中には、ヒストンをアセチル化するものが含まれている場合があります。ヒストンがアセチル化されると、ヒストンに巻きついているDNAがほどけやすくなるため、さらに転写を促進していることになります。
転写抑制因子
一方、転写を抑制する転写抑制因子は、エンハンサーやプロモーターとは別のDNA領域である「サイレンサー」という場所に結合します。転写を抑制する方法にはいくつかあり、ここではエピゲノムに直接関係する方法を紹介します。
サイレンサーに結合した転写抑制因子がメディエーターと結合すると、メディエーターは別のタンパク質を呼び寄せ、アセチル化されたヒストンからアセチル基を除去します。すると、転写促進とは逆にDNAがヒストンに強固に巻きつくため、転写が起きにくくなります。
また、ヒストンをメチル化させることで、アセチル基除去と同じように転写を抑制する方法もあります。
転写因子による負のフィードバック
転写因子によって制御される遺伝子の中には、別の転写因子を作り出すものも含まれています。つまり、ある転写因子が別の転写因子を作り出す、もしくは作らないように抑制することで、転写因子同士が複雑なネットワークを形成しています。
例えば、転写因子Aが別の転写因子Bの発現を促進すし、転写因子Bは転写因子Aの発現を抑制する機能をもつとします(Aが転写活性化因子、Bが転写抑制因子)。次のようなループが生じます。
Aが増える→Bが増える→BがAの発現を抑制する→Aが減る→Bが減る→BによるAの発現抑制が弱まる→Aが増える→Bが増える……
このループ現象は「負のフィードバック」とよばれています。ある転写因子が増えると、巡りまわってその転写因子の発現が抑制されることで、細胞内環境を一定に保つための仕組みと考えられています。
転写因子は、遺伝子発現の制御に直接関わるものです。そのため、どの転写因子がどの遺伝子を制御しているのか知ることは、細胞内のさまざまな現象を解明できるだけでなく、医療や育種に応用できる可能性を秘めています。
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