はじめに
全ゲノムシーケンス解析(WGS: Whole Genome Sequencing)は、生物のゲノム全体をシーケンスし塩基配列を決定する手法であり、遺伝情報を理解する上で重要なアプリケーションとなっています。日本では、「全ゲノム解析等実行計画2022」が推進され、がん・難病の全ゲノム解析に代表されるゲノム解析やマルチオミクス解析を行い、治療応用や情報基盤の整備が展開されつつあります。この記事では、WGSの方法、利点、そして課題について紹介します。
WGSの方法と手順
WGSの工程は大きく4つに分けられます。
- DNAサンプルの抽出: 対象となる細胞や組織から高品質なDNAを抽出します。
- ライブラリー調製: DNAを断片化し、両端にシーケンスに必要なアダプター配列を付加します。
- シーケンス: 調整したライブラリーをシーケンサー(例えばIlluminaのプラットフォームなど)によって読み取り、塩基配列を決定します。
- データ解析:生成された大量の配列データから、ゲノム全体の配列を再構築し、変異や遺伝子機能など興味の対象をバイオインフォマティクスの方法を用いて解析します。
WGSの利点
WGSは遺伝情報を全体的に理解するための強力なツールです。以下にその主な利点をいくつか挙げてみましょう。
- 遺伝情報の全体像の提供: WGSは、生物のゲノム全体をカバーするため、遺伝情報の全体像を提供します。リファレンス配列のない生物種においても、例えばロングリードシーケンスデータを用いてアセンブリを行うことで、新規ゲノム配列の決定を行うことが出来ます。これは新規ゲノムシーケンシング(de novo sequencing)と呼ばれます。リファレンスゲノムが存在する生物種において、特定の領域に焦点を当てて解析を行う他のシーケンス技術(例えば遺伝子をコードする領域であるexonのみを解析するWhole Exome Sequencing)とは対照的であり、大きな利点です。Non-cording 領域の研究: WGSは遺伝子をコードする領域だけでなく、Non-cording 領域(タンパク質として翻訳されない領域)の配列も得られます。Non-cording 領域には、プロモーターやエンハンサー領域などが含まれており、遺伝子の発現調節などを行っている領域もあります。また、その変異は、ある種のがんや発達障害といった多数の疾患に関与することが知られつつあります。
- 構造変異の検出: WGSは、点突然変異だけでなく、コピー数変動(CNV: copy number variations)、挿入欠失(Indel)、転座や挿入、逆位などの大規模な構造変異も検出することができ、融合遺伝子の検出に役立ちます。構造変異は、がんをはじめとする疾患の原因となります。
WGSの課題
WGSは非常に強力なアプリケーションですが、いくつかの課題もあります。
- コスト面:WGSは特定の領域のみを解析するターゲット解析と比較してコストがかかります。そのため、すべての研究プロジェクトや臨床診断での使用には適さない場合があります。しかし、シーケンス技術の進化と共に、コストは下がり続けています。
- データ量:WGSは大量のデータを生成します。このデータの管理、ストレージ、そして解析は、大きなコンピューティングリソースと専門的な知識を必要とします。
- Non-cording 領域の解釈:WGSはnon-cording領域をカバーして解析ができますが、これらの領域の変異の生物学的な意味を解釈する為には、多くの知見の集積が必要とされています。
まとめ
WGSは、ゲノム全体の塩基配列を提供する強力なツールです。その一方で、コスト、データ量、non-cording 領域の解釈の困難さ、そして個人情報に関する倫理的問題など、いくつかの課題を残しています。しかし、これらの課題にもかかわらず、WGSは遺伝情報を理解し、疾患を診断し、治療開発に繋がる重要な手段として、これからのシーケンス技術の進化とともにWGSの利用可能性と適用範囲はさらに広がっていくでしょう。
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当社は最先端のゲノム・エピゲノム解析で培ってきた技術を活用して、生物学・医学・薬学領域における基礎研究や製品・ソリューションの開発、またはそれらの受託業務を行っています。次世代シーケンサーにより得られるエピゲノムデータの他、ゲノムやトランスクリプトーム、メタゲノムデータを組み合わせた統合的なデータ解析により、細胞制御の詳細なメカニズムの予測や精度の高いマーカーの探索を行います。また、研究開発のあらゆる場面で必要となるデータの統計解析や図版作成を基礎知識を必要とせず誰もが手元で実現できる環境を提供しています。