ゲノム入門 第4回 転写因子の役割

発生を支える遺伝子調節ネットワーク

胚の発生の進行や胞の運命決定における身体形成に関与する遺伝子発現は、大規模な相互作用を特徴とする遺伝子調節ネットワーク(gene regulatory network:GRN)によって支配されています。遺伝子調節ネットワークは、細胞内の物質の相互作用により遺伝子発現を調節する分子の集合を指します。

エンハンサーや転写因子(transcriptionl factor: TF)などは、遺伝子制御ネットワークにおいて中間的な役割を果たしています。

この記事では、遺伝子調節ネットワークを構成する要素、発生が進行する上でのこれらの要素の動的な変化、正確な遺伝子発現を維持するシステムについて紹介していきます。

 

遺伝子調節ネットワークを構成する要素

・複数のTFの組み合わせによる作用は、遺伝子調節ネットワークの働きを特徴づけています

TFは、発生段階や状況に応じて多様なエンハンサーセットを占有することができます。そのTF占有率の時間的な変化は、TFの発現のタイミングではなく、むしろ発生の進行を促進する遺伝子調節ネットワークの一時的性質を制御するDNA占有のタイミングの影響を受けるものと示唆されています。

・エンハンサーへのTFの結合様式の違いにより、多様な転写産物を生成することができます

組み合わせTFの占有率は、TFがどのように相互作用するかに応じて、さまざまな種類の転写産物をもたらします。これに係るエンハンサーの活性は個々のTFの濃度に比例します。

複数のTFによるエンハンサーへの共同的な結合は、隣接する部位に結合されたTF間のタンパク質 – タンパク質相互作用に関連しており、その転写応答はスイッチ様効果(応答のオン/オフ)を生じます。

・TFが共同的に作用するための間接的なメカニズムが存在しています

DNAへの共同的な結合は、DNA上の隣接する部位に結合するTF同士の直接的なタンパク質 – タンパク質相互作用に起因します。TFが共通のコアクチベーター:p300-CREB結合タンパク質(CBP)ファミリー、コリプレッサー:Grouchoおよびメディエイター:SAGA、TAFIID複合体などと相互作用することで、転写に相乗効果をもたらします。

・クロマチンアクセシビリティ

TFの占有率は、ヒストンとTFがDNAへのアクセスを競合するエンハンサーでのヌクレオソームの位置によっても影響されます。

また、TFとヌクレオソーム間の相互作用はヌクレオソーム内のヒストン尾部の翻訳後修飾にも影響されます。特異的なヒストン修飾は活性または不活性なプロモーターおよび転写された遺伝子の本体に見られ、シス調節エレメントにおいて動的かつ細胞特異的パターンを有しています。

発生における動的変化

エンハンサーに結合したTFの組成は、ある時点におけるエンハンサーの活性状態を反映するだけでなく、発生中に段階的な動的変化の影響を受けます。プライミングから活性化までの連続する事象は、遺伝子発現に識別可能な効果を持たない事象であっても、遺伝子発現プログラムの精度を保つうえで重要な機能的役割を果たす可能性が示唆されています。

・アクセシビリティのコントロールを担うpioneer factor

発生に関与するエンハンサーは、TFだけでなくクロマチンリモデリングによって調節されることがあります。

胚発生および細胞分化において、ほとんどのTFは、特定のエンハンサーで転写複合体を集合させ、ヌクレオソームの再配置を誘発します。その後、他の因子に対するアクセシビリティを増加させることで、ヌクレオソーム再配置をもたらすクロマチンリモデリング複合体を動員することができます。

Pioneer TFが結合するだけではエンハンサーに活性化複合体は形成されず、エンハンサーが補助因子をリクルートするため、発生の後期段階で活性化を引き起こすことがあります。

pioneer TF として、MYOD1、PAX5、PU.1、FOXA1;HNF3α、CCAAT/エンハンサー結合タンパク質-β(C /EBPβ)などの分子が知られており、 これらは遺伝子調節ネットワークの最上部で作用します。

ヌクレオソームの再配置に加えて、エンハンサー内のDNAメチル化からの保護は、発生段階におけるTFのエンハンサー占有にも関与します。多くのエンハンサーが、細胞特異的であり、TF結合の影響を受ける低レベルのDNAメチル化を有することが報告されています。

・エンハンサープライミングと発生

発生の進行および細胞の決定は、GRNによって調節されています。類似の標的配列に結合し、発生過程における構造形成に関与するTF(神経発生におけるSOX因子、または筋形成におけるMYF因子)の連続的発現が、GRNにおける中心的役割を果たしています。これは、エンハンサーへのTF結合のみが必ずしも転写活性を誘導していないということ暗示しています。

プライミング特異的エンハンサーは、クロマチンリモデリングの律速段階を減少させることによって発生段階の移行を促進します。実際、多くのエンハンサーは、前駆細胞(例えば、H3K4me1またはH3K4me2)において、これらの要素がその段階で強い調節活性と関連していないにもかかわらず、特異的なヒストンテール修飾されています。

一方、エンハンサープライミングによって、発達の後期段階で不適切なTFが拘束されることがあります。そのため発生の初期に接近可能にされたエンハンサーでのTFの無差別な結合は、プライミングされたエンハンサーの不適切な活性化を予防する必要があります。

発生段階におけるエンハンサーの変化

発生の初期段階では、エンハンサーがTF結合部位へのアクセスを妨げる凝縮したヌクレオソームアレイによって覆われています。

発生中の特定の段階でのパイオニア因子の発現は、クロマチンリモデリングを開始し、ヌクレオソームを再配置し、将来の活性化のためにエンハンサーを準備することができます。

発生が継続するにつれて、さらなるTFの結合または補因子の利用可能性の変化は、エンハンサーの活性状態を変化させます。

遺伝子発現の正確性と堅牢性のために

遺伝子の時空間発現は、正確性と堅牢性を維持するために、調節エレメント間の階層的な相互作用を含む特異的なゲノム構造を必要とします。

・遺伝子発現のためのエンハンサーの統合

発生遺伝子は、遺伝子の発現の特定の時空間的側面をそれぞれ制御する複数のエンハンサーエレメントによって調節されています。

最近の研究では、この複数のエンハンサーには、遺伝子プロモーターにより近い一次エンハンサーと重複または同一の空間活性を示す「二次的」エンハンサーも含まれていることを提唱しました。 「一次」と「二次」は、遺伝子プロモーターへの物理的距離またはエンハンサーが発見された順番によって区別されています。2つの要素の活性はほぼ同等であり、二次エンハンサーは、胚発生などの決定プロセスに不可欠な表現型の堅牢性を提供するシャドーエンハンサーであるとされています。

・ゲノムのシス調節機構

遠隔のエンハンサーによって調節される多くの遺伝子では、大きなクロマチンループがエンハンサーおよび標的遺伝子を物理的に近接して配置し、相互作用をもたらすと考えられています。また、発生に関与するエンハンサーの多くは、生物学的に関連性のある標的遺伝子だけでなく、無関係な隣接遺伝子にも作用しています。

ゲノムの3次元組織において、遠隔エンハンサーが関与している場合には、調節エレメントの相対配置が信号の出力に不可欠となっています。発生に係る遺伝子座に影響を及ぼすゲノムの構造変化に関連する様々な発生の表現型によって強調される。

遺伝子やシス調節エレメントに関するエンハンサーの位置は、進化の過程で制約されています。したがって、TF結合部位の相対位置によって影響されるエンハンサーの出力と同様に、転写産物は、遺伝子、エンハンサーおよび散在する構造的要素の相対位置を含む遺伝子座の全体的な体系によって形成されています。

まとめ

・複数のTFの組み合わせによるタンパク質‐タンパク質間作用は、遺伝子調節ネットワークの働きを特徴づけています。

・発生に係る遺伝子調節は、エンハンサーの単純なオン/オフスイッチによる活性化による影響だけでなく、発生段階の漸進的な変化の影響を受けています。

・遺伝子発現の正確さと堅牢さを維持するために、さまざまな調節システムが働いています。

 

参考論文

Nature Reviews Genetics 13, 613–626 (2012)  doi:10.1038/nrg3207



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